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『レコード芸術』2023年07月号 新譜月評 優秀録音/ラヴェル: ボレロ

『レコード芸術』2023年07月号 新譜月評 優秀録音/ラヴェル: ボレロ

ラヴェル: ボレロ
こんな「ボレロ」聴いたことがない!
ロトとレ・シエクル、予想を上回る衝撃の凄さ。今年最大の新譜登場!!ついにロト&レ・シエクルの「ボレロ」が実現しました!過去4枚のラヴェル・アルバムの素晴らしさから、「ボレロ」がどんなものになるか誰もが期待し、実際リクエストも多数寄せられていました。ロト自身「楽器が揃ったら必ずやる」と言っていましたが、今回満を持しての録音となりました。これが予想をはるかに上回る演奏で、冒頭から15分間釘付けとなります。

リズムを打ち続けるのがスネアドラムではなくタンブール(プロヴァンス太鼓)であることと、ピリオド楽器の音色とノンヴィブラート奏法に一瞬ドキリとさせられますが、すぐ既成概念を一新され引き込まれます。変わっていく楽器の音色が知っているものと違うのが新鮮で、ハルモニア・ムンディの録音の良さがそれぞれのニュアンスを絶妙に伝えます。

ロトは厳格にテンポを守り、じわじわとクレッシェンドしていくものの単調ではなく、むしろリズム感の良さが際立ちます。それでいて各奏者のソロには遊び心をまかせている点が民主的であると実感させられます。ラヴェル究極の職人芸による人工美の音楽ながら、官能的とさえいえる情感を示します。

ほとんどがボレロ初演時代の楽器で、トランペットのように聴こえる小口径のトロンボーンは初演時に使われたそのものとのこと。ガット弦のエラール・ハープ、ミュステルのチェレスタまで独特な明るい音色に魅せられます。楽譜も新しいクリティカル版により、後に削除されたカスタネットが曲後半に現れます。あまりの鮮烈さにあまたある名盤がかすんでしまう印象を持つと申せましょう。

アルバムのメインは歌劇「スペインの時」。ロトとレ・シエクルにとりオペラや管弦楽のジャンルの違いは重要ではなく、両作品にみられるラヴェルのスペインの出自と愛着、非現実性を追求しています。「スペインの時」は約50分の一幕物で、スペイン女性の浮気心をテーマにした笑劇。通常コントラファゴットで代用されるサリュソフォンのパートをオリジナル通りに奏して独特な効果をあげています。歌手陣も好演で、ハバネラのリズムによる大団円の五重唱は圧巻です。(キングインターナショナル)

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