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『レコード芸術』2023年04月号 新譜月評 優秀録音/シューベルト: ピアノ三重奏曲集 他

『レコード芸術』2023年04月号 新譜月評 優秀録音/シューベルト: ピアノ三重奏曲集 他

シューベルト: ピアノ三重奏曲集 他
「あまり時間が残されていないなら、お別れにはこれがふさわしい。君たち二人は最高だ。クリストフも実に素晴らしい。そしてフランツときたら。信じがたい。なんという表現。なんという壊れやすさ。なんという愛」
このアルバムの録音を聞いたラルス・フォークトがクリスティアン・テツラフとターニャ・テツラフに宛てた言葉です(「クリストフ」は録音プロデューサー兼エンジニアのクリストフ・フランケ、「フランツ」は作曲者のシューベルト)。
ドイツの中堅世代を代表するソリスト3人によるシューベルトの後期作品を集めたアルバムは、フォークトの早すぎる死により、このトリオの最後の録音となってしまいました。録音セッションが行われたのはフォークトが癌の診断を受ける少し前でしたが、彼はセッションの合間に痛みをこらえてソファに横たわることもあったそうです。しかし録音からはそのような気配は感じられず、端正で軽やかに、必要とあらば地響きを感じさせるほどの力強さでピアノを奏で、テツラフ兄妹と一体となり触発し合って間然するところの無い音楽を奏でています。3人の技術・解釈は言うまでもなく最高水準で、後期シューベルトならではの天国的な「歌」の魅力と、和声の変化がもたらす明暗の情感も十分に表出。フォークトが「僕の人生のすべてはここに向かっていたんじゃないかとさえ思える」と語った第2番をはじめとする会心の出来。選曲の充実と相まって後期シューベルトの世界に深く浸れるアルバムとなっています。
輸入盤ブックレット(ドイツ語・英語)にはテツラフ兄妹がこの録音の思い出を7ページにわたって綴っており、フォークトを知る人は特別な思いを禁じ得ないでしょう。
国内仕様盤にはその全訳に加え、シューベルト研究家の堀朋平氏による解説が付きます。(ナクソス・ジャパン)

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